研究概要
染織品の保存修復技術を世界に提供するとともに 海外、国内での人材育成にも力を入れています 歴史的文化財を保存修復し、後世に伝える
博物館資料・文化財をめぐる保存修復技術、展示と活用、有形文化財を継承するための伝統技法の継承などについて、主にテキスタイルを対象として研究しています。染織品の保存修復関連として、天然染料の分析や博物館照明での退色、合成接着剤などの修復材料についても科学的な研究を行っています。
■海外での保存修復活動
海外への国際協力として、アルメニア、台湾、エジプトなどで文化遺産保護に従事しています。2011年から保存修復技術を指導しているアルメニアでは、2020年度に文化庁文化遺産国際協力拠点交流事業を受託し、エチミアジン大聖堂付属博物館と協力しています。エジプトではJICA大エジプト博物館保存修復センターの人材育成事業に2008年から携わり、2016年からは染織チームのリーダーとしてツタンカーメン王の染織品57点をエジプト人保存修復専門家と共同で保存修復し、展示まで取り組みました。このエジプトでの活動は、2020年に第27回読売国際協力賞を受賞しています。
■国内で広がる活動の場
国内では、東日本大震災で被災した陸前髙田市立博物館での文化財の保存レスキュー作業や、沖縄の首里城火災で損傷した染織品のクリーニング技術指導など、研究成果を実践につなげる活動も積極的に行っています。佐賀錦・鹿島錦の歴史研究なども行い、国内での活動も多岐にわたっています。
■技術を伝える教育支援
海外・国内での保存修復事業では現地の博物館専門職へ技術指導を行うなど、これまでも教育支援に力を入れてきました。国際非政府機関のICCROM(国際文化財保存修復センター)の研修講師も務め、2019年には佐賀大学の有田キャンパスに国籍も分野も異なる文化財保存の専門家が集い、ICCROMの夏期研究を開催しました。
文化財の保存修復は、染織品を細かく調べることで私たち人類がどのように歩んできたかを解き明かし、後世に伝える仕事でもあります。繊細な作業でもあるため専門技術が必要不可欠ですが、国内には染織品の保存修復専門家が非常に少ないのが現状です。日本の貴重な文化財を継承していくためにも、本大学の地域デザイン研究科で優秀なテキスタイル・コンサヴァター(染織品保存修復専門家)養成の必要性を強く感じているところです。
MESSAGE
文化遺産を保護し、継承するためには多様な考え方や取り組みを互いに知ることで、現場で日々取り組んでいる文化財専門家の実践に繋がると信じており、国際共同研究を進めていきたいです。
主要業績
- 石井美恵編著『佐賀錦の世界~古賀家を通じて 和紙と絹が生み出す伝統と創造The World of Saga Nishiki through the Koga Family Traditiona and Creativity Woven into Paper and Silk』NextPublishing Authors Press (2021).
- 石井美恵, 奥島希子, 森田智香子, 吉川千夏, 茶圓彩, ブレイヴァネッサ.「文化遺産教育におけるゼロ・ウェイストの取り組み」九州地区国立大学教育系・文系論文集7(1):1-7 (2020).
- 石井美恵, 小坂智子.「学習者中心の文化遺産教育 佐賀大学有田キャンパスで開催したイクロム夏期セミナー2019「文化財の保存と科学のためコミュニケーションと教育スキル」」文化財保存修復学会誌63: 9-16 (2020)
- 間舎裕生, 横山翠, 石井美恵.アルメニア共和国における染織文化財保護の国際協力」文化財保存修復学会誌63: 17-25 (2020).
- 石井美恵.「国立西洋美術館所蔵タピスリー《シャンボール城 : 九月》の修復(The Conservation of a Gobelin Tapestry Le Chateau de Chambord : le Mois de Septembre in the National Museum of Western Art) 国立西洋美術館研究紀要15:33-44 (2011).