研究概要
農山村に飛び込み、暮らしを知りそこから自然の維持管理を考えています。 農山村の自然をどう管理していくか
私は、農村社会学や環境社会学を専門としながら、農山村の自然の維持管理のあり方について大きく分けて3つのテーマで研究を行ってます。
1.農山村の暮らしの現場から自然環境問題を考える
一つ目は、農的自然への関わり方や、それに携わる人々の変化です。多くの農山村では、生活様式の変化や過疎高齢化による土地利用の変化や管理能力の衰退など、数々の問題を抱えています。そしてそれらは、地域の歴史や状況によって異なります。そこで私たちは、「まず現場に飛び込め!」ということを大切にし、「直接観察」と「聞き取り」を主な手法としたフィールドワークを続けています。場所によっては15年、20年以上にわたって、その土地の食べ物を食べ、農作業を地元の人に教えてもらい、地域の人々の声を聞き取り、地域社会の歴史や営みをより深く理解しようとしています。日本や海外の、若い学生たちにとっても、このようなフィールドワークは非常に重要な方法だと考えています。
2.獣害問題を考える
二つ目は近年ますます深刻になってきた獣害問題です。農山村では動植物が持っている自然の能力を利用して他の動植物をコントロールする方法が昔も今も行われていますが、狩猟犬を使った狩りを今もなお続けている地域とそうでない地域では、害獣による被害に大きな差が出ていることに着目しています。昔からの営みのどのような面が、現在にどのように生かせるかといった視点から人間社会と動物の関わりを見つめ直し、イノシシなどの野生動物への対処策につなげていきたい考えています。
一つ目と二つ目のテーマに関しては、ずっと昔から営まれてきたであろう多層的な自然の利用や、地域のコミュニティを単位としながら、自然利用しながら管理してきたセミドメスティケーションが、問題を考える上での大きな鍵になっていると考えています。
3.日本とアジアの山・水に関わる諸問題
三つ目のテーマは、日本やアジアにおける山・水に関わる諸問題を社会的側面からとらえようとする試みです。
日本と東南アジアでは状況が違います。たとえば日本では耕作放棄が問題となっているのに対して、アジアの多くの国では農地開発による環境の急激な変化が問題になっています。私たちの経験を踏まえて共に問題を解決していくために、現在はラオスやベトナムの農山村と交流を広げ、インドネシアやスリランカの共同研究者たちとも研究をはじめようとしているところです。
さらに現在は、社会学以外の分野との対話の必要性も感じ、農学や生態人類学や農業経済学などの分野との議論も深めています。
MESSAGE
コモンズについては、ローカルな土地に住み続けてきた人びとの歴史や現在の試行のなかに、必ず解決の方法があると考えています。
※コモンズ・・・「みんなのもの」として利用したり管理したりされている土地や資源のこと。
主要業績
- M.Fujimura, 1999, Nature and social relations: The form of property of Japanese Mura, Asian Geographer, 18: 75-85.
- 藤村美穂,2016,現代社会は山との関係を取り戻せるか, 年報村落社会研究52,221-242.
- J. M. P. N. Anuradha, M. Fujimura, T. Inaoka, N. Sakai, 2018, Collective labor-intensive farming toward sustainable farm livelihoods, Journal of Environmental Sociology, 24: 121-136.
- 藤村美穂, 2019,「日本の草原はどのように維持されてきたのか?」 足立重和・金菱清編『環境社会学の考え方――暮らしを守る12の視点』ミネルヴァ書房,97-118.
- 藤村美穂,2021,「駆け引きすることの有効性――九州の狩猟犬の事例から」 卯田宗平編『野生性と人類の論理――ポスト・ドメスティケーションを捉える4つの思考』 東京大学出版会,131-146.