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低炭素社会実現を目指した窒素固定増強型ダイズの作出

農学部 生物資源科学科

生物科学コース

下村 彩 助教

Shimomura Aya

農学博士

研究分野

作物生産学、微生物学、植物栄養学・土壌学

キーワード

マメ科植物、粒菌、共生、窒素固定

CONTACT

農学部 生物資源科学科 生物科学コース

FAX 0952-28-8787 / MAIL ashim

研究概要

SEN1遺伝子を持つダイズ新品種の作出で 環境問題に大きく貢献します。 低炭素社会の実現を見すえた研究です。
私たちの研究室では、窒素固定増強型ダイズを作出・研究し、低炭素社会実現への貢献を目指しています。

■研究のカギとなったのはダイズが持つSEN1遺伝子。
慣行農業で使用されている窒素肥料は、多くの場合、合成の段階で膨大なエネルギーを必要とし、環境に大きな負荷をかけています。ところが驚いたことに、マメ科植物は根粒菌と共生することで、作物生産に必要不可欠な窒素肥料を自ら作り出すことができることがわかっています。ただ作物生産という面では、その窒素量が十分ではないこともわかっています。
そこで、窒素固定増強型ダイズの作出の際に大きなカギとなったのが、SEN1と呼ばれる遺伝子でした。
私たちの研究室では、窒素固定にはSEN1遺伝子が必須であることを確認し、さらにモデルマメ科であるミヤコグサにおいてはSEN1遺伝子の多型が窒素固定能や植物成長、種子重に影響を及ぼすことも解明しました。
ダイズにおいてもSEN1遺伝子には多型が存在しており、私たちはこれらをエンレイ型と命名しました。そして元来ペキン型であるフクユタカに、交配育種法でエンレイ型を導入してフクユタカSEN1(独自の品種)を作出し、性状分析を実施しました。その結果、フクユタカSEN1はオリジナルのフクユタカと比較して成長が促進され、窒素固定性や収量も高くなることがわかりました。さらには、窒素施肥量を半量程度で栽培したフクユタカSEN1でも、標準施肥したフクユタカと同程度の成長を示すこともわかりました。これは、半分の窒素肥料でも同等のダイズ収量が得られる可能性を示しています。
現在はフクユタカSEN1の性状解析を進めていますが、今後は、気候や環境が違う他の地域でも同じように育つのかなど、研究をさらに深めていく予定です。

■新たな品種で環境問題に貢献します。
現段階では世界中のダイズ品種の約9割はペキン型であることが判明しているため、これらの品種へエンレイ型を導入することができれば、世界中でダイズ生産に使用している窒素肥料を大きく軽減することができると考えています。

マメ科植物の研究は長きにわたって行われ、根粒菌とマメ科植物との共生関係も広く知られているところですが、実際に作物生産に役立っている例は少ないのが現状です。そんな中で、フクユタカSEN1のように新品種としての可能性が広がっていることに、やり甲斐と喜びを感じながら研究を続けています。

MESSAGE

フクユタカSEN1を用いた予備実験では、窒素肥料を50%に低減してもオリジナル品種と同等の生長が得られています。
世界中のダイズ品種の約9割においてSEN1遺伝子を共生窒素固定増強型へ転換することが可能であると考えられるため、この研究を推進することによって、農林水産省が掲げる「みどりの食料システム戦略」の化学肥料の使用量低減およびCO2ゼロエミッション化という目標の達成に貢献できると期待されます。