研究概要
個人属性に応じた保健医療を目指しALDH2多型rs671を研究しています。 東アジア人特有の遺伝子に着目
現在、私たちの健康は環境基準や健康診断、保健指導、医療などで守られていますが、その基礎となる科学的根拠は、体質などの遺伝的多様性や生活習慣といった個人属性を十分に考慮したものではありません。これらを考慮した疾病予防や治療を目指せば、より合理的な保健医療の実践につながります。私が着目しているのは、ALDH2遺伝子のrs671多型です。
■ALDH2多型rs671
世界的に多くの人は、ALDH2多型rs671の1型のみを保有し、日本人の約半数が2型を保有しています。2型は東アジア人特有で、飲酒した時に顔が赤くなる・動悸がするといった「アジアンフラッシュ」現象を引き起こすことで知られていますが、単に「赤くなる」というだけではなく、様々な遺伝的特徴を生むことが分かってきました。
たとえば、私達の研究では免疫能に生じる違いが見出されました。2021年にはがん治療における免疫チェックポイント阻害剤の効果にALDH2多型rs671が影響することを報告しています。また、2型を持った人に飲酒習慣がある場合、比較的体重が軽く、血圧が低く、肝障害の血液指標があがりにくいことが報告されています。しかし同時に食道がんの増え方が著しいこともわかっています。
■rs671の認知促進を目指して
2型保有者が飲酒した場合、血圧や肝障害の血液指標があがりにくいことは、一見すると良いことのようですが、私は問題視しています。多くの医師がこれらの指標を「飲みすぎ」の目安にしているためです。このように「飲みすぎ」が見過ごされると「飲酒OK」の誤ったメッセージが伝わって、結果的にがん罹患を促進しかねないからです。このことが当事者や医療従事者に認知され、がんのリスクが回避されるよう、様々なかたちで広報活動を行っています。
MESSAGE
ALDH2多型rs671はそれだけでは大きな健康影響は及ぼしませんが、顕著な体質の変化を生みます。そのため、環境や生活習慣に由来する疾病や薬効等に与える影響が大きいのです。研究が盛んな欧米諸国では稀なため、エビデンスの蓄積が遅れており、特に日本においては優先度の高い研究分野です。当研究室では細胞・動物実験や疫学研究、分析化学など、幅広い手法を用い、様々な背景の研究者と共同研究を行っています。一緒に研究しませんか。
主要業績
- Matsumoto A, Hara M, Ashenagar MS, Tokiya M, Sawada T, Iwasaka C, Furukawa T, Kitagawa K, Miyake Y, Hirota Y. Variant Allele of ALDH2, rs671, Associates with Attenuated Post-Vaccination Response in Anti-SARS-CoV-2 Spike Protein IgG: A Prospective Study in the Japanese General Population. Vaccines. 2022; 10(7):1035.
- Matsumoto A, Nakashima C, Kimura S, Sueoka E, Aragane N. ALDH2 polymorphism rs671 is a predictor of PD-1/PD-L1 inhibitor efficacy against thoracic malignancies. BMC Cancer. 2021;21(1):584.
- Matsumoto A, Ito S, Wakamatsu K, Ichiba M, Vasiliou V, Akao C, Song BJ, Fujita M. Ethanol induces skin hyperpigmentation in mice with aldehyde dehydrogenase 2 deficiency. Chem Biol Interact. 2019;302:61-66.
- Matsumoto A. The Bidirectional Effect of Defective ALDH2 Polymorphism and Disease Prevention. Adv Exp Med Biol. 2019;1193:69-87.
- 松本明子. アルデヒド脱水素酵素 2(ALDH2)遺伝子多型の予防医学的重要性. 日衛誌 (Jpn. J. Hyg.). 2018;73(1):9-20.