日本語English

心臓血管病における病態機序解明と治療へのアプローチ

医学部 医学科

老年循環器病学講座

白木 綾 寄附講座教授

Shiraki Aya

医師 医学博士

研究分野

循環器内科学、心不全、高血圧、動脈硬化、ワクチン開発

キーワード

心不全動物モデル、心筋梗塞動物モデル、ミトコンドリア、心筋代謝、高血圧、酸化ストレス、EETs、血管内皮細胞

CONTACT

医学部 医学科 老年循環器病学講座

TEL 0952-34-2364

研究概要

健康寿命を延ばすためにも 心臓血管病における新たな治療法を探索 よりよい治療法のために研究
心不全は、循環器病急性疾患のサバイバー(治療を受けた人、治療中の人)が増えていくこと、ますます高齢化社会になっていくことなどにより、将来的には心不全パンデミックとなることが予想されています。そんな中で健康寿命を少しでも伸ばし、楽しみながら人生を送る人が増える未来を目指し、心臓血管病における病態機序解明と治療へのアプローチをテーマに研究を続けています。

■新たな心不全の治療法へのアプローチ
心不全の治療としては、RA阻害剤、βブロッカー、MRAなどの薬物療法、心臓再同期療法などが確立されてきた中、私たちは、心臓エネルギーの代謝及び栄養状態の変化が、心不全の原因と解決の糸口になるのではないかと考えました。そこで、非糖尿病性拡張型心筋症の動物モデルを使用し、間接型カロリメトリーARCO2000を使った代謝測定やオキシグラフ-2kによるミトコンドリア機能の測定などを行って、研究を実施しました。その結果、GLP-1RAは不全心において心筋のエネルギー欠乏状態を引き起こすこと、さらにはGLP-1RAを投与しながら炭水化物をしっかりと摂取することで心不全が劇的に改善することを証明することができました。この研究の成果は、サイトカイン因子に主眼を置かれてきた治療方法とは異なったアプローチであり、ゆくゆくは心不全における有効な治療方法の一つになるのではないかと考えています。研究を高く評価いただき、2020年12月に、日本循環器学会九州地方会で女性研究者奨励賞最優秀賞を受賞いたしました。

■ワクチンによる循環器病の治療法の開発
新たな循環器病の治療法として、sEH阻害ワクチンにより体内のEETsを増やす研究を行い、近い将来には人への応用も視野に入れて研究を進めています。このワクチンを接種することにより慢性心不全、心筋梗塞後リモデリングの抑制、動脈硬化性疾患などに対し、簡便で安価な長期の治療効果が期待できます。

心血管病の治療法はここ20年ほどでめまぐるしく進化してきたとはいえ、心臓にダメージを受けているのは明らかで、依然として予後不良の疾患が多くなっています。私たちの研究が、新たな治療法につながっていくことを願って日々取り組んでいます。


※佐賀大学では動物愛護の3Rにのっとって実験を行っています。

MESSAGE

心不全は循環器病急性疾患のサバイバーが増えていくこと、高齢化社会になっていくことなどより、心不全パンデミックとなることが予想されています。健康寿命を少しでも長くし、楽しみながら人生を送る人が多くなる未来を目指して研究を行っています。心臓は全身に栄養と酸素を送るために必須な臓器であるため、生きている間中、無意識のうちに規則的に動いている特殊な臓器です。その特殊性ゆえに多大なエネルギーをいつも必要としています。心不全の原因と解決の糸口の一つはそこにあると考え、ミトコンドリア機能、糖・脂質の心臓代謝に注目して研究しています。
抗sEHワクチンは体内のEETsを増加させる作用を持ちます。このワクチンは細胞障害性の病態に効果があると仮説を立て、研究を進めています。現在は動物へのワクチン接種ですが、近い将来、ヒトへの応用も視野に入れています。