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公共水域の水環境保全、持続可能な水利用のための総合的水資源管理

理工学部 理工学科

都市工学部門

ウォンタナースントーン・ナルモン 准教授

Vongthanasunthorn Narumol (Matsuyama Narumol) 

工学博士

研究分野

水環境工学、水質管理、総合的水資源管理、循環型社会システム、環境モデリング・保全修復技術

キーワード

筑後川、水質モデル、低平地の水問題、水循環、渇水

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理工学部 理工学科 都市工学部門

MAIL si4430

研究概要

河川やダムの水質を解析し 持続可能な水利用につなげていきます 地域の水資源を継続的に研究
私が取り組んでいるのは、持続可能な水利用と水環境保全のための水質管理・水資源管理の研究です。河川管理者やダム管理者である国土交通省及び独立行政法人水資源機構から観測データを提供していただき、数式モデルを作成し、水質変化のシミュレーションを行っています。

■水質問題への取組み
水環境における自然現象を理解するには、長い時間をかけて研究をしないとわからないこともあります。本研究室では、河川、湖沼・ダム貯水池、海域における水質問題の原因や、人間活動が水環境に及ぼす影響を把握するために長期にわたって研究してきました。漁獲量減少やノリの不作などで注目されている有明海や諫早湾干拓調整池の水質変化についても、20年近くにわたって研究を続けています。

■シミュレーション実施
河川やダムなどは規模が大きくて実験ができないため、観測データをもとにシミュレーションを行います。対策をとることでどのくらいの効果が得られるのかといった効果検証や、複数の対策案がある場合にも比較検討を行うことができ、水環境の改善の先読みが可能になります。得られた研究成果は、対策を検討する際の判断材料として、行政や河川・ダムの管理者にフィードバックしています。

■渇水時の総合的水資源管理
近年は気候変動に伴い、洪水や渇水が短いサイクルで繰り返しています。その渇水時の水質変化と、渇水時の水資源管理についても研究しています。河川やクリーク、地下水、ダムからの供給のバランスを考慮した上で、低平地における水循環特性および総合的水資源管理について研究を進めています。筑後川水系をはじめ、有明海やダム等の水質変動に関する研究も継続的に実施しています。

 流域水循環の変動特性を活用した渇水被害緩和のための持続的水資源管理システムの構築(令和3年度~令和5年度)
 「JSPS KAKENHI Grant Number JP21K12339」(研究代表者)
  近年、気候変動に伴う洪水災害のリスクが懸念されているものの、降雨量の減少による渇水災害のリスクも年々増加している。流域の水循環の鍵である地表水と地下水のバランスは、気候変動の影響によって変動し、不安定な状態にある。降雨量に左右される河川流量と地下水の採取量に左右される地下水位に加えて、気候に左右されない下水の再生利用ポテンシャルを活用することで渇水時の被害を緩和することが期待できる。本研究は、嘉瀬川流域と白石地区を含む佐賀平野をケーススタディとし、嘉瀬川ダムの供給及び佐賀平野の利用可能な地下水資源と下水再生水に着目し、流域水循環の変動特性を活用した持続可能な水資源管理システムの構築を目指す。

 曝気循環対策に伴う寺内ダムの水質特性の変化に関する研究(令和3年度)
 「九州地方計画協会研究支援(調研-R3-5)」(研究代表者)
  寺内ダムは、洪水調節、水道用水の供給及び灌漑用水の確保、流水の正常な機能の維持を目的とする多目的ダムとして1978年に管理開始された。管理当初よりダム貯水池内ではアオコの発生をはじめ水質障害が確認されており、流域内対策、河川内対策、貯水池内対策など複数の水質保全対策が実施されている。富栄養化を軽減する目的として曝気循環装置6基が稼働している。ダム貯水池水環境の改善対策を評価する際、曝気循環装置の効果及びダム貯水池の水質に対する曝気循環の影響に関する情報は必要不可欠である。水質モデルを用いた水質解析のアプローチにより、実験・調査では把握できない情報を得ることが可能な場合がある。本研究の目的は観測データ及び水質モデルの活用により寺内ダム貯水池内における曝気循環対策の影響に関する知見を得ることである。
 
 低平地の減災に向けた社会基盤の課題と改善に関する研究(令和3年度)
 「公益財団法人佐賀県建設技術支援機構研究助成」(研究分担者)
 【沿岸域環境研究分野】
  近年、赤潮発生による漁獲量の減少やノリの不作などの水産被害が全国的に問題になっており、赤潮の発生に係わる水質・底質環境の把握および現象解明に関する検討が各地で行われている。特に有明海では、窒素がノリ養殖と藻類増殖の双方に深くかかわっており、窒素の挙動について詳しく把握することが求められている。窒素の供給源である河川からの流入負荷、底泥からの溶出に加え、佐賀市下水浄化センターの季節別運転管理による窒素の供給に着目し、水質モデルを用いた有明海の窒素の挙動について考察を試みた。

 渇水時における嘉瀬川ダムの水質特性に関する研究(令和2年度)
 「九州地方計画協会研究支援(調研-R2-06)」(研究代表者)
  嘉瀬川ダムは佐賀県佐賀市富士町の嘉瀬川水系に位置している多目的ダムである。2017年~2019年の降雨量は平年より低く、貯水不足に伴い嘉瀬川ダムの取水制限が実施された。貯水量が低下した期間において流入負荷及び取水条件が貯水池水質に及ぼす影響が懸念されている。国土交通省の「渇水対応タイムライン作成のためのガイドライン」(令和元年3月)では、渇水対応の際にダム事業者及び河川管理者による貯水池等の水質監視が求められている。渇水時におけるダムの水質変化に関する基礎的資料も少ないことから、本研究の目的は水質管理のために水質モデルを用いて渇水時における嘉瀬川ダム貯水池の水質特性に関する知見を得ることである。

 水質モデルを用いた筑後川水系ダム群連携事業の影響分析(平成30年度)
 「九州地方計画協会研究支援(調研30-04)」(研究代表者)
 水質モデルを用いた筑後川水系ダム群連携事業の影響分析(Ⅱ)(令和元年度)
 「九州地方計画協会研究支援(調研31-04)」(研究代表者)
  筑後川水系ダム群連携事業の目的は筑後川水系における流水の正常な機能を維持することであり、筑後川中流域の本川から佐田川へ導水し、江川ダム・寺内ダム・小石原川ダムの空容量の活用により不特定容量を確保し、渇水時に筑後川・有明海の水量確保及び河川環境保全、既得利水等の供給を実施する予定である。ダム群連携事業の導水に伴う寺内ダム及び江川ダムのダム湖内の水質変化が懸念されており、また、これらダム群からの放流水は、筑後大堰湛水域、筑後川感潮域そして有明海湾奥部の水質に影響を及ぼす可能性があると考えられる。平成30年度の研究では、ダム群から筑後大堰湛水域、筑後川感潮域及び有明海湾奧部を対象に筑後川水系の水資源開発の影響分析を試み、影響分析を評価するためのモニタリングポイントとして大堰湛水域、感潮域、さらには有明海湾奥部に至るまで広域的な視点が必要であることを確認した。令和元年度の研究はダム群連携事業の導水による影響をより正確に把握するために既存の水質モデルの再現性を改善し、総合的な水質管理の観点からダム群連携事業の影響を検討した。

水質モデルの活用による嘉瀬川ダムの水質管理に関する研究(平成29年度)
 「九州地方計画協会研究支援(調研29-06)」(研究代表者)
  嘉瀬川ダムは嘉瀬川水系に建設された多目的ダムであり、嘉瀬川ダム貯水池の上流部に副ダムが設置されており、その目的は景観確保、湖面・湖岸利用者の親水効果、貯水池の荒廃化の防止及び洪水後の本ダム放流水の水質改善である。副ダムにおける流入土砂の沈殿現象については、現象解明の観点から検討課題が残されているようである。嘉瀬川ダムでは濁水の長期化問題は報告されてはいないが、副ダムによる土砂の挙動を把握した上で本ダムにおける濁度の変化を検討する必要がある。一方、平成25年8月にダムサイト付近にアオコの発生が報告されており、原因究明に加え、水質管理の観点から内部生産及び栄養塩の挙動に関する知見の収集は必要不可欠である。また、本ダムには、選択放流施設が設置されているが秋期には温水放流による下流への影響が懸念材料である。濁水問題と温水放流問題、そして富栄養化問題を解決するには、藻類増殖も含めた懸濁性物質の鉛直的な挙動を明らかにすることにより、合理的な施設運用のための基礎資料を得ることは有意義と言える。以上のことから、本研究の目的は水質管理の為に水質モデルを用いて嘉瀬川ダム貯水池における水質の挙動を明らかにすることである。


総合的水資源管理の概念は世界共通であり、どの国でも同じように活用できる研究です。現在も私の母国・タイのチャオプラヤ川流域の水環境に関する共同研究などを行っていますが、今後は日本や世界の他地域でも研究を行い、その地域の水質管理・水資源管理に役立ててほしいと考えています。

MESSAGE

水資源管理の関係者(河川管理者、ダム管理者、自治体、コンサルタントなど)のサポートとして、水質モデルを用いてダム貯水池を含む河川流域及び海域における水環境問題の解明や人間活動による影響分析を行い、適切な対策を提案することを目指しています。母国であるタイのチャオプラヤ川流域の水環境に関する共同研究や海外の研究科者との国際交流活動も実施しております。